2013年7月アーカイブ

メラニー・プーレン(1975年生まれ)はアメリカを拠点に、世界各地で活動を続ける写真家です。

独学で試行錯誤の中で写真技術を学び、「High Fashion Crime Scenes」シリーズを発表、センセーショ ナルな反響を巻き起こしました。
このシリーズはニューヨーク市警およびロサンゼルス市警の犯行現場ファイルに基づく100枚を超える写真からなるメラニーの代表作です。自身について、「偶然」を大事にしているが、実際には「気が狂いそうになるまで自分自身を追い込む」完全主義者である、と語るメラニーは、このシリーズを 制作するにあたり、作品ごとに80名近いスタッフとモデルを使用し、時には1作品に最長で1か月かけて制作を行いました。衣装とアクセサリーには1300 万ドル以上をかけ、煌びやかなハイブランドを散りばめ、犯罪現場を(多くはその被害者と共に)再構築する事によって、バイオレンス・イメージを容易に受け 取る私達に、暴力の本質とは何かを深く問いかけます。

今回はその「High Fashion Crime Scenes」シリーズと特製本を日本で初めて展示販売致します。

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【死体への想像力】 飯沢耕太郎(写真評論家)

 メラニー・プーレンの「ハイ・ファッション・クライム・シーンズ」はとても興味深い写真シリーズだ。この作品の元になっているいわゆる犯罪現場写真は、警 察に属する専門カメラマンによって、19世紀以来大量に撮影され続けてきた。だがこれらが、単純に証拠を保存するためという理由だけでなく、むしろわれわ れの本質的な「見たい」という欲望に応えるために撮影されてきたことは、1980年代以来、この種の写真のアンソロジー写真集が多数刊行されていることで もわかる。ではなぜ、われわれは犯罪現場写真に惹かれるのか。端的にいえば、それはそこに死体が写っているためだ。
 死体は非日常の極みであるだけでなく、それ自体が不思議な吸引力を秘めている。いうまでもなく、メラニー・プーレンもそれに魅せられた一人だ。彼女はこ の作品の制作の動機について、写真集のあとがきに面白い話を書いている。プーレンは子供の頃、自然写真のコンテストの審査をしていた祖母の部屋で、一枚の 写真を見せられた。コンテストの最高賞を受賞したその作品には、雪原と樹以外には何も写っていないように思えた。ところが、写真をよく見ると、樹に向かっ て続いている小さな動物の足跡が、ある場所で不意に途絶えている。つまりそこには、猛禽が動物を襲い、殺すという見えないドラマが秘められていたのだ。
この「見えないドラマ」を見出すという想像力こそが プーレンの写真制作の鍵になっていることは間違いない。彼女が丹念に仕組んだ殺人現場には、必ず何 かもっと複雑で、表にはなかなか現れてこない物語が埋め込まれているのだ。それをあたかも推理小説のように読み解きつつ、モデルたちが身に纏う、洗練され た「ハイ・ファッション」を愉しむことができれば、これに勝る極上の視覚的体験はないだろう。

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【メラニー・プーレンプロフィールMELANIE PULLEN 】

1975年ニューヨーク市に生まれる。現在ロサンゼルス、カリフォルニア州在住。

ニューヨークのウェストビレッジで育ったメラニーは、Audubon Magazineの写真エディターでありThe Guilfoyle Reportの創設者でもある祖母アン・ギルフォイルから影響を受け、(メラニーが子供の頃、家族には作家、出版業者、詩人、画家がいた。70年代から 80年代には、幼年期の 家にAndy Warhol, Allen Ginsberg, Emily Glen, Shel Silversteinらが頻繁に訪れていた。)10代で最初のカメラを手に入れる。その後は独学で様々な刊行物、雑誌、カタログ、レコードレーベル用に 写真を撮り始め、Beckの2004年のアルバムGueroおよびThe Informationを手がけているほか、Devendra Banhart、JoannaNewsom、Rock Kills Kid、The Black Keys等数多くのミュージシャンの写真を撮り下ろしている。

High Fashion CrimeScenesシリーズ・violent timesシリーズにて、アメリカ国内外で幅広く個展・グループ展を開催している

 今も昔も、銀座は華やいだ街だ。休日となれば歩行者天国で人々が行き交い、また、オリンピックの街宣パレードやら、歌舞伎のお練りやらが大通りを賑わせることもある。古く趣きのある建物が残っているかと思えば、有名なブランドの凱旋店がオープンして話題を呼んだりもして、まさに「ハレ」の街である。外国からの観光客も多い。

 そんな銀座の裏通りの第二蒲田ビルに、ヴァニラ画廊は2003年にひっそりと誕生した。 画廊を初めて訪れた人の多くは、このビルの何とも独特な佇まいに驚いたのではないだろうか。狭い箱のようなエレベーター、薄暗く古めかしい階段...きらびやかな銀座の街に置いていかれてしまったようなこのビルの階を上がれば、四階、白いドアの向こうに、ヴァニラ画廊という、これまた非日常的な空間が広がっている。第二蒲田ビルはヴァニラ画廊に実に似合いの場所だったのかも知れない。

 そんな銀座の一角にも開発の波が押し寄せ、ヴァニラ画廊も第二蒲田ビルを去らねばならなくなった。とても残念なことだが、このビルでの最後の展示「劇団ゴキブリコンビナート展 大人が本当に怖いお化け屋敷 魍魎八景」はまさに最後を飾るに相応しい「展示」だった。真っ暗な画廊内に組まれた足場を舞台に繰り広げられる、阿鼻叫喚のエネルギッシュなお化け屋敷。もはやこれは展示なのか?というほどに、エキサイティングで実験的な展示だったと思う。刺激的で実験的。だがそれは、本質的には決して非日常のものではない。銀座の賑やかな大通りから一本入ったところに第二蒲田ビルが存在していたように、日常のすぐ隣に、ヴァニラ画廊という混沌とした場所は存在しているのだ。それはエロスやフェティッシュ、アングラやサブカルといった従来の単なるカテゴリーには区分できない、もっと根源的で純粋な、剥き出しの衝動が作り出す世界である。そういった作品を作り続ける作家の方々、そこを訪れるお客さまといったたくさんの方が、この画廊に血を通わせてくれていたのだ。

 第二蒲田ビルでの歴史に幕を閉じ、ヴァニラ画廊は新たな場所で再び活動を始める。今度もやはり銀座の裏通りにあるビルの中だが、四階ではなく地下二階である。これまでよりも広い場所となり、より色々な展示の在り方を「実験」できる展開となりそうだ。新たな画廊の本格的な皮切りとなる展示は、日本初展示となるメラニー・プーレン写真展だ。鮮やかに研ぎ澄まされ、計算され尽くした彼女の「犯罪現場」写真は、暴力の痕跡×ハイファッションという奇妙で、しかしながら美しい鎮魂歌である。

 是非こちらにも足をお運びいただきたい。

 従来のジャンルや既成の価値観を超えた、見るものの心を震わせる作品と、多くの人々の往来、そして交流が、この場を賑わせてくれることを願っている。(ヴァニラ画廊)