「それでも生きる少女のために」と丁寧に編まれた、心揺さぶるジンのお取り扱いを始めるにあたり、制作された桐島さんの思いを記しました。
是非書籍と一緒にお楽しみください。
桐島こより編:インディペンデントマガジン
『MILLE-FILLES』
1,050円(税込)

町田ひらく・岡崎裕美子・宗像郁・マキサヲリ・桐島こより
いつもーー
いつも一人の女の子のことをーー
夕方の下校放送の割れた音に雑ざりこんな声が頭の中に鳴り響くようになったのはいつからだったのだろうか。
そして、今日もパレードはやってこなかった、とやるせなく肩を落とすのだ。
否、呆れ返るほどパレードはやってきた。
イミテーションの冠を見せびらかして失笑を買うような、地金はいいのに悪趣味なデコレーションを山のように施しパレード中にぼとぼとパーツを落としていくような。
みすぼらしさを強調する従者を引き連れ斜に構えながらも玉座を欲して止まないパレードが悪夢のように続き、その座・イメージ・ステータスを貶め続けているのをどこまでも続くアスファルトの上に立ち、ずっと見ていて疲れ果てていた。
しかし、悪夢は予告なく終わった。
ある日突然アスファルトが割れた。建物が倒壊した。線路が波打った。それら全てを海が根こそぎさらっていった。
やがて、アスファルトの下に埋もれていた土や川や草がひょっこり顔をのぞかせた。
人々は未知のものである荒野を恐れた。私はこれを知っていた。今までひとりぼっちで誰とも分かち合えず心の奥底にしまいこんでいた風景が突如として目の前に出現し、それにやっと実在するものとして触れることができ、皆と分かち合うことができ、少しだけ身軽になった。
もう待つのは止めていいんだ、そう思った。だから、瓦礫の中から好きなものを拾い集めて雑草で編み込んで自分の王冠とすることにした。
パレードは待つものではなかった。自分が先頭を歩いてもよいものだった。例え誰も付いてこなくとも歩かなきゃと決めた。
そ れまで堂々と日の当たる場所で馴れ合いながらネイルやメイクやファッションを見せびらかし互いを牽制し合っていたイミテーションの集団がすっかり怯え、パ ニックを起こしている間に、私は膨大な瓦礫の山を必死に見つめ、顔や爪と指の間を泥まみれにして大事なものを拾い集めた。瓦礫の山は宝の山であり、記憶の 山でもあった。
『MILLE-FILLES』はそんな「私たち」の記録であり王冠です。
ーーいつも一人の女の子のことを書こうと思っている*ーー
この声を大切に受け継いで歩き続けていくための道標、灯台を作ろうと思いました。
幾千もの大地の裂け目を貫く光となり、不安定な足場に佇む幼い人々や、いつまでも「少女」の気高さと繊細さを忘れられずに生きざるを得ない人々の心に届きますように、との祈りを込めて。
誰もが心に秘めている王冠を、この本を片手に探してもらえたらと願っています。
*岡崎京子『ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね』収録「ノート(ある日の)」より
http://www.amazon.co.jp/dp/4582832121/