2011年5月3日に行われた『邪神宮』~邪~The Evil展特別イベント、「クトゥルー神話の夕べ」。
参加作家の皆さまと司会に東雅夫さんをお迎えしての豪華なトークイベントの様子をお伝え致します。
また、「邪神宮 闇に囁く者たちの肖像」はじめ、邪神宮関連グッズはヴァニラ画廊にて好評取り扱い中です。是非ご利用下さいませ。
東雅夫(以下、東・敬称略):今までになかったクトゥルー神話ですね。でもこの企画を形にするのは大変だったでしょ?小説だけは今まであったけれど、小説とアートを絡めて、それにフルカラーでというのはなかったですよね。
児嶋都(以下、児嶋・敬称略):クトゥルー好きな女子って少ないですよね。中学の時全集を文庫で読んだけれど理解できなかったです。大人になってなんとなく分かるようになったのだけれど。
でもなんとなくクトゥルーってイメージが固まりすぎて広がっていない気がしたから、作品を創ってみたくなりました。今日みたいに女の子がきてくれてうれしいです。
最初は図録だけだったのだけれど、話が進むうちにクトゥルーを書かれていない小説家の方にあえてお願いしようとなって。岩井志麻子さんとか…。
東:岩井さんはクトゥルー初挑戦ですね。≪家庭内クトゥルー神話≫と言うかなんというか、今までになかった分野のクトゥルー神話を書きますね。
岩井志麻子(敬称略): 私小説ですね。以前るみちゃんというマネージャーがいて。
彼女はすごいほら吹き。尋常じゃ無いほら吹きだったの。で、私は彼女の嘘を信じていました。神話は出来過ぎた方が信じちゃうものですよ。クトゥるみ神話もそうですね。
スケールが大きなほらだからこそ、みんなの心をつかんじゃうんです。
児嶋:クトゥるみ神話は岩井先生の中で覚醒されて大きくなっていますよね(笑)
東:では美術の方に行きたいと思います。天野行雄さんの展示がありますが、どうでしたか。
天野行雄(以下、天野・敬称略):水木しげるさんの「地底の足音」をテーマに、また、実際にいらっしゃった作家さんをモチーフにしています。
水木さんが好きな民芸作家が和紙をひねって山の神々をつくるひとでした。今回、「地底の足音」とその人のモチーフを組み合わせました。「地底の足音」がラヴクラフトと関連しているのは東さんに指摘されて初めて知りました。
東:これぞ水木マジックですね。海外の怪奇小説を多くおりこんでいますよね。その点を京極さんどう思われますか。
京極夏彦(以下、京極・敬称略):当時は怪奇小説なんて言われていなかった。西洋怪談とか言われていましたね。
そのぐらいの時に水木しげるは巻頭弁をラヴクラフトの引用でしているんです。1930年代にやってしまたんですね。水木しげるが怪奇漫画というジャンルに目をつけたらラヴクラフトがいた。
そして怪奇系は楳図かずおさんなどにバトンタッチして、自身は妖怪系へとシフトしていったんですよね。文芸運動と漫画運動のわかりやすい構図の中で、ラヴクラフトはちょうど中間地点に居た。
東:江戸川乱歩もラヴクラフトを紹介して、そうしたらミステリ系作家も注目し始めて。
平井呈一も怪奇小説の翻訳も日本においてラヴクラフトの地位の確立に功績して行きましたね。我々も水木さんを入口にして、自然と怪奇小説の世界にはいっていけました。
そしてこの流れがこうやって天野さんの造形に結びついて。
天野さん今回の作品のポイントは?
天野:和紙を使おうと思ったのでひたすらこよりました。
箱根の九頭龍神社の伝説になっている九頭龍の設定をモチーフにしました。
東:海外にもクトゥルーをモチーフとしたアートが多くありますが、和のモチーフは海外には無い発想ですね。
そして、黒史郎さん、今回は≪海洋クトゥルー≫というか、異色のもので。黒さんは以前リトルリトルクトゥルーで最優秀を受賞しています。内容的に通底していますね。
黒史郎(以下、黒・敬称略):自分のクトゥルーの始まりは妖怪系の大百科でした。子供の時見たデンマークの妖怪ダルディビのイメージ、蛸姿で触手、それに人面がちりばめられていて…それをモチーフにしています。
クトゥルー神話賞の時にでてないもの、そして自分で新しい話を作りながらも、モチーフはしっかり保っています。
東:見方によって代わって見える、短い中にも臨場感が感じられて、黒史郎らしいと思いました。
子供の頃の妖怪のイメージが影響していますね。
黒:子供の時のイメージとして、昆虫のイメージも大いにあります。トンボの死にざまや、団子虫を注射器で貫通させたりしていました。
子どもながらのミクロの視点を小説で使っています。クトゥルー。つまり蟲ですね。
東:井上雅彦さんは造形で参戦ですが、どうして粘土で表現したのですか?
井上雅彦(以下、井上・敬称略):粘土は良く遊びでやっていて。ドラキュラが溶けていく様子とかね。昔、ヨーロッパの王侯貴族がわざと自分の体がカタツムリに食べられたりして朽ちていくように創らせた作品に影響されての連作を創っていました。
創っているとリラックスできるのです。
東:執筆の合間に創られていられるのですか?
井上:ええ、今回は石膏粘土でつくりました。名前変えて出そうかな、とおもったくらいで。
東:朝宮運河さんはアートの方の解説をやっていただきました。大変だったと思いますが、非常によく考えられていて感心しました。
朝宮運河(敬称略):どのように解説しようか悩みました。いわゆる海外でよくあるクトゥルーのタコやイカの触手のようなゲーム系クトゥルーがなくておもしろかったです。
日本的、神道的なものが多くて日本人らしさを感じました。書道とか、いままでに無い表現ですね。
児嶋:書道の話がでましたね。京極さん、どうでしたか。
京極:書道と言うのは早いんです。「良しは悪し」です。ラヴクラフトファン、クトゥルーファン、画廊のファンに申し訳ないです。笑
東:では三浦悦子さん、SONICさんにもお話を伺いたいと思います。
SONIC(敬称略):私は人形をコマドリで撮ってアニメーションにしています。ラヴクラフト言っても可愛らしいけれども、邪神的なもの、そして犬とイメージを絡めました。
コマドリ作家はハッピーな雰囲気の作風の方が多く、自分はホラー系の作品が多かったのでだからこそ今回の企画に呼ばれたのかなとも思います。
東:今までの仕事と関連性もあるんですね。SONICさんの作品は可愛さと不気味さが同居していますね。三浦さんはどうですか。
三浦悦子(以下、三浦・敬称略):私は自分自身の作品の背景に母の存在が強くて、作るものが家族・両親で。ラヴクラフトの父の存在が浮かばなくて。母としてつくりました。
東:ラヴクラフトマザーとしてどんなイメージでしたか。
三浦:恐い面を持っていて…
東:ラヴクラフトは軽くマザコンですね父親の欠損から病院にはいったりしたりしていたりしました。皆さんちょっとの接点をいいじぶんの持ち味でだしていますね。本日森馨さんもいらしていますね。
森馨(敬称略):私はほとんど知識がないのですが、伊藤潤二さんのラヴクラフト的作品が印象的です。今回は触手担当でしたね。女性がクトゥルー神話にほとんど出てこないから、自分の人形とどう結びつけようかと思いました。
東:新しい神話の世界ですね。怪奇・ホラー・クトゥルーも男性のファンが多かったけれど、女性もこれを機会に不思議な世界に触れて美術も小説も触れて頂ければと思います。
児嶋:最後になりましたが、フランソワ・アモレッティさんについて少し紹介をしたいと思います。
フランスではゴスロリ系の作品で活躍されていらっしゃる方で、クトゥルーも日本もとても好きな方です。フランスでは、クトゥルーの人気は高くて…
東:フランスではまだクトゥルーがまっとうに評価されていない時代から文芸批評が行われてきたりした国でクトゥルーの人気はとても根強いです。
本当に今回の展示は様々なジャンルの多くの方が参加していますね。このようにクトゥルーは色々な捉え方ができる。
クトゥルー的なファクターは多くつかわれますね。この先もっと広がっていくことでしょう。 (終)
2011年5月 於 ヴァニラ画廊