

ヴァニラ画廊での3度目の個展を開催する水元正也・展示を経るごとに、一段とその世界観に驚かされます。
深い水底のように穏やかでありながら、不穏な波紋を感じるフェティシズムを描きこんだ作品群。
その創作にまつわるお話を氏から伺いました。
● 水元さんの個展のタイトルは毎回興味深いですね。今回はあのチルチルミチルの…
水元(以下・水):そうですね。「青い鳥」をもじったものです。
● 水元さんの独特のアイロニーが感じられるタイトルですね。童話などはよく読まれていたのですか?
水:タイトルにそんなに深い意味はないですが、童話はいつもきれいごとで終わるのが嫌いなだけで…ひねくれたガキだったんですね。粗探しをするのが好きで。
●水元さんの言葉のセンスが感じられます。作品のタイトルもとても面白いものが多くて…。
水:絵は完成してからタイトルを考えます。言葉から発想して絵を描くことは無いですね。
ある程度作品が完成してから、候補を決めてタイトルを決めていきます。
個展のタイトルの場合は、言葉の意味合いよりは音の響きで考えています。読んでいて音として心地よかったり、逆に引っかかったりというものの中から考えています。
● 今回DMを拝見して思ったのは、昔より作品が穏やかになったような気がしますが、不穏度が増している印象を受けます。
水:そうですね。以前はぱっと見た感じのインパクトを追求していましたが、それよりは一見普通に見えて、よく見るとどこかあれ?というというものが好みになってきました。私はモデルさんの写真を撮ることから作品制作が始まるのですが、はじめにサンプルを用意して、モデルさんにこれならできるというものを選んでもらいます。無理に要求はしませんが、たまにノリでやってくれる人はいます。枚数をとってこれというものを選び、制作を行います。
● 写真を絵にする時に、変えたりする部分はあるのでしょうか。
水:多少デフォルメしたりしますが、そんなに激しく変えたりはせず微調整程度です。
こちらがやらなくとも、モデルさんがデフォルメしてくれるので。笑
変えるとしたら指の角度や髪のかかり方とか小さな事です。
● 今回の個展はどのくらい新作を予定していますか?
水:展示全ては作品を24点を予定しています。その内17点は新作です。
単純に言うと新作は旧作と比べると技術があがったと感じます。そして内容も前より痛々しい感じはなくなりました。今回は女性の顔メインです。1点顔じゃないのがありますが。自分でも毎回新作は悩んで製作しています。以前は顔全体が変形しているのが好きだったんですが、どんどん自分の好きなポイントが変化していてピンポイントで鼻の穴だけとか、歯並びとか、舌の裏がわとか、守備範囲が広がっているのか狭まっているのか。笑
● モデルさんによって描きたい部位は変わりますか?
水:それはあります。よく言われるのがどうせ変形させるならモデルなんて誰でもいいでしょと。それは本当につまらなくて、是非この人にこのポーズを、というものでなければここまで描きこめないと思います。この間もモデルさんにきれいな鼻の穴をしていますねと言ったら、「どこ見ているんですか!」と。笑 描きたい場所でした。今描いてて一番楽しいのは歯ですね。ただとても難しいです。参考にと色々な絵を見るのですが、中々うまい具合に歯を描いている画家を探すのは難しいです。
● 日本は歯並びに関しては寛容な国だと思うのですが、どのような歯並びが一番好みですか?笑
水:基本的には全部好きですが、一番好きなのはぴったり綺麗に並んでいる歯並びですね。
でもそこまで綺麗だと別に絵に書く必要はないかなと思いますが…
● 今回作品の中でこだわった部分はありますか?
水:はい。今回は髪の毛にこだわりました。わりと今まではざっと面取りでやっていたのですが、今は一本一本描いています。描いていてとても楽しいです。終わるまで時間もかかりますし、絵全体のバランスも見て描かなくてはいけなのですが…。
●こだわりの対象、フェティシズムは変化していますか?
水:今まで好きだったものはずっと変らないと思いますが、今まで気にも留めてなかった部分が好きになるということはあります。今は歯磨きをしている女性がすごく気になります。でも中々歯磨きしてくれと頼み辛くて…笑
●やはり口に関わってくる部分ですね。
水:でも自分のフェティシズムとしては顔は2番目で、1番目は足ですね。ただ足を描くと主観が入りすぎて、あまりに素の自分が出すぎてしまって、人様にさらせないです。笑
それがあるのでしっかりと作品としては残していないのですが、落書き程度ですね。
●足のどの部分が一番こだわりポイントですか?
水:一番好きなのは指の付け根の関節部分のへこんでいる所…笑
● 鉛筆にこだわって描いている理由はありますか?
水:もともとモノクロが好きというのもあるのですが、僕の大学の先生の作品が油絵なのですが、ずっと灰色で描いていて…。その絵がとても好きで、その影響が強いです。
鉛筆自体は制作を始めた頃は全く使っていなくて、もともとは油絵を描いていたのですが、どうにもうまく使いこなせなくて、絵を描くのが嫌になった時期がありました。半年ぐらい何にも描けなくて、ただグループ展が決まっていた時期で、何か描かなくてはと焦っていた時期に、一からやり直そうと思って鉛筆を使い出しました。それがこんなに長く続くとは自分でも思ってみなかった事です。結局鉛筆を使って制作をしている期間のほうが長くなってしまいました。
●影響を受けた方はいらっしゃいますか?
水:一番は鴨居玲ですね。他にはフランシスベーコンやギーガー、べクシンスキー、ラインハルト・サビエ、鉛筆画の林良文さんも大好きです。
● 水元さんの昔の作品に比べて画面の中の陰影がより鮮烈になっているような気がします。
水:否、鉛筆を使い始めた頃はもっと真っ黒だったんです。その中からハイライトで人物を浮かび上がらせるような作品でした。その後どんどん全体像を描きこむようになって、今はまた陰影の部分をより濃く描くようになりました。
● どんどん細部まで描きこむ作品が増えていますね。一枚どのくらいで描き上げるのでしょうか。
水:早くて2ヶ月から3ヶ月かかります。数枚を同時進行で描いています。完成したものを寝かせて、その後客観的に見ておかしいところがあれば修正を加えます。
● 完成作品は人物像の上にひび割れや斜線が入っていたり、完成作品の上から何か技法を加えるというのが多く見られますね。
水:ほぼその技法を施す瞬間のために絵を描いてます。あの瞬間のドキドキ感は他には味わえません。うまくいけば自分が思っている以上の良い効果を得られるし、だめだったら自分が今まで描いていたものが全て台無しになるリスクの高さ…その瞬間にサドとマゾの気分が同時に味わえるという…笑。今まで自分がやってきたものを壊すという攻撃的な気持ちと、むちゃくちゃにされてしまうのではという恐怖…!笑
●それを経て描きあがった作品が今回揃うわけですね。ますます新作を拝見するのが楽しみです。
いよいよ5月16日(月)から展覧会がスタート致します。その深遠なるフェティシズムの底を、是非ご高覧下さい。