田亀源五郎個展「WORKS」8月14日トークイベントレビュー

田亀源五郎個展「WORKS」にて開催致しました特別トークイベントの模様を少しだけお届け致します。■814日ゲスト:沢辺均&雨宮まみ

(以下、田亀→田、沢辺→沢、雨宮→雨)

田亀 イベントの様子.jpg

 

◆田亀氏の漫画作品について

 田亀さんの描かれるストーリーは凄く良いですよね。中村うさぎさんがエロスは差別だという事をおっしゃっていて、差別があるからこそ興奮するって。

 あ、でもよくわかります。私SMをやりたかったんだけれど、なぜだか髭が生え揃うまではSMはできないと思っていたの(笑)

 その頃読んでいた本の影響ですか?

 その頃読んでいた本には髭なんて殆ど出てこなかった。私がデビューする頃まではゲイ雑誌って顎髭ご法度みたいなところありましたよね。口髭ぐらいで。だから顎髭をどかんと出したのって私が最初なんじゃないかな。私が出るまでは「熊」っていうキーワードも無かったかも。私が初めて「熊系」って主張した。(笑)デビューしたての頃に1年間書いていたイラストエッセイでいかに「熊」は素晴らしいかなど書いたり。本当にそれまでは皆無だったはずですよ。実際世の中にも髭はやしている人はあまりいなかったし。和風でいうとやはり短髪で、ビデオが出てくるようになってようやく口髭が多少。長谷川サダオさんが例外的に口髭をたまに描いていらした。あと、『ゲイ・エロティックアート3』に収録予定の竹内譲二さんの絵がわりとアメリカナイズされた絵だったので、顎髭とかちょっとあったぐらいで。私がそういうのを描き始めたのも日本のゲイ雑誌からではなくてもっぱらアメリカの雑誌からでした。ハードゲイみたいな文脈で見ていた。私が描き始めたら、今まで見たことはなかったけれども、これはイケるじゃない?みたいな人が出てきたらしくて、そこからわりと「熊」だの顎髭だのというのが広がりましたね。

 

 面白いのは最近ボーイズラブでも似た現象が起こっていて、とあるBLのアンソロジーがあるのですが、私が日露戦争の話でサンタクロースみたいなおじいちゃんを出したら、当時はあまり無かったらしく、色んな人から「おじいちゃん受け」に目覚めたって(笑)

 すごく可愛いですよね。あのおじいちゃん…

 結構人間って見て初めてわかる自分のセクシャリティーってあるんだな…と。

 それはそうですよ。無で思い出せないもん。「これどう?」っていわれて、「良い」とか「好き」とか言えるんだもんね。

 世間的にはわりとセクシーな女の人はこういうものだとか、イケメンはこういうものだとか、基本的にそういうものだとおもっているひとがそこそこいて、そういう人で本当の根っこの所ではそういうものは好きではないんだけれど、でもこういうものだと刷り込まれているから欲情していたものが、いざ本命みたいなものが出てきてしまって、あ、こっちだったの?!って。

 なんでこんなにドキドキしちゃうんだろうって自分でもわからなくて。

 おもしろかったのはG-menを創刊した頃にスタッフの中でジャニ系を好きな人がいて、その人はセックスの指向というよりもゲイ雑誌で何かをやりたいっていう感じでG-menでお仕事するようになったのだけれど、最初は自分はジャニ系好きだからこういう野郎系はちょっと…っていう感じだったんだけれど、半年経たないうちに野郎系好きになってましたね。今まではこれがまともっていうのが、意識的か無意識的かわからないのだけれど、その人の中ではあって、でもそれと自分の本質は違うっていうのを実際に写真とかモデルとか見ることによって自覚したっていう。

田亀会場風景.jpg

◆ゲイ・エロティックアートについて

 田亀さんの不思議な所は、自分でも描くわけだけれど、ゲイのエロ絵画に対する興味やリスペクトが強いじゃないですか。それはどういう所からきているんでしょうか。

 元々物凄く好きなものに対してはわりとオタク気質で、色々調べちゃうのはあるんです。でもゲイエロに関しては30パーセントくらい使命感みたいなものがありますね。つまり私が本格的にゲイ雑誌に描くようになって、当然読者だった時代に色んな方の絵を見ているわけですが、その影響で自分も描くようになって、日本ですと過去に描かれたものを見れる機会が雑誌に載ったらそれでおしまいだったので、全く無かったのです。対して海外ではどうかと目を向けると、ヴィンテージの昔のゲイの写真とか画集が出ている。そんなに大きなマーケットでは無いのですがちゃんと出版されている。それの影響を受けて今の自分がいますという事を公言する人が、ゲイアートに限らず、コマーシャルアートの世界でもごく当たり前に発言している。そのような状況がとても良いなと思ったんです。対して日本だと顧みられないで、埋もれてしまっていくのは悲しいなと思っていた所で、とある方から私が好きだったイラストの原画をいくつかまとめて頂く機会を頂いたのですが、頂いた原画がコラージュされちゃっていたんですね。顔が気に食わないところは別の顔を切り抜いて貼って。そういう状態の原画が半分くらいで、それを見て、ああちょっとこれは悲しいなぁと思ったのと、あとやっぱり似たようなパターンで、そういうことを色々と調べていたらある方を紹介して頂けたんですけど、伺ってみると「(作品を)ついこの間処分しちゃったわ」っていうことだったり、また私の知り合いの人で、付き合っていた人に「そういういやらしいものはダメだ」と諭されて(作品を)処分しちゃったなんていう話もあって、そういう状況をなんとかしたいなっていう気持ちはあったんです。それでとりあえず、データベースのような形としてでも何とか残しておきたいなと思って、サイトにそういうページを作ったんです。それで、松沢さんだったかな?が、沢辺さんを紹介してくれて。

 僕が松沢さんと話していて、日本のゲイ雑誌の作品を、ちゃんと体系的に一冊にまとめたものを出したいよね、という話は何となくしていて、それをやるなら田亀さんしかいないよね、という話になって。

 それで、最初は私の方から「こういう風にしたい!」という壮大なプランを抱えていったんですけど、そうしたら沢辺さんに「いや、それは無理だよ田亀さん」って言われて(笑)「出せるところから出していけば良いよ」っていう話になって。

 それで一巻ずつ出していって、四巻は、これは未定なんだけど、俺としては田亀源五郎全集にしたいなって考えていて。まあ、田亀さんもそうなのかもしれないけど、自分も、あらかじめ「アートですよ」って決まっていない分野、そういうものに魅かれるんだよね。今は下手したら(そういう分野の作品は)捨てられちゃうわけ。そういうところも良いんだし、しょうがないことだとも思うんだけど、百年経ったら状況が変わるわけだよね。そういうのに興味がある。

 私なんかはどこかで、価値観をひっくり返したいっていうのはすごくあるんですね。

2巻を出した時に、村上隆さんと田亀さんでトークイベントを行ったのですが、その時に村上さんは、アートの根源の、アートを作る人の欲望の量が強くならないとアートにならないって言っていて、「ゲイアートの人たちの作品を見ると本当に欲望が強いと思うんですよね」って(笑)他の人と比べてとかではなく、その欲望をモノにしようっていうのが、強いよねって。で、実際の性生活はどうなんですか?(笑)

 一時期はね、結構追求したんですよ、性生活を。でもね、絵で描いてるみたいにはいかないじゃない(笑)ロールプレイングみたいになっちゃうのはつまらないなって。

かといってセックスの為に日常生活を捨てられるかっていうとそういうのも私には躊躇われるんですね。

 だから誤解されないように今一度強調しておくと(笑)田亀さんの「欲望が強い」っていうのは、セックスに対してっていうよりも、そのことを絵や物語にするっていう欲望なんだよね。

田 確かにね、私も海外のアートを生業としている人たちの口からよくきく言葉というのが「パワフル」っていう言葉なんです。アート的な価値観で見た絵の善し悪しを「ビューティフル」とか「エレガント」とかではなく、「パワフル」であるかないかっていうことで形容する人が多いです。確かに私も他の作家さんの作品を見ていて、何か自分に迫ってくるものがあると「お金出してでも欲しい」とか思うし、そうじゃなくてもっとサラっとした感じだと、「良いけどお金出すほどじゃない」って、そういうのは自分の中にありますね。

 

◆お客様との質疑応答

Q.近年やおい系とゲイカルチャーのミクスチャーが起きているが、(作品に)「女性目線をとり入れてもいいな」と田亀先生が思った心境の変化について。

 

 ミクスチャーっていうのは実は昔から起きているんですね。私がデビューしたころの「さぶ」に、当時の「june」の作家さんが名前を変えて描いていたり、「さぶ」で連載されていたものを、挿絵だけ女性向けに変えて出ていた「ロマンジュネ」というものもありました。ですからミクスチャーというのは皆さんが思っているほど最近起きたことではなく、もっと奥深いところからきているんですね。ですが、一つ変わったことがあるとすれば、当時の「ジュネ」がボーイズラブであったということは、それは同時に「耽美」「禁断の愛」だったんですね。私はその「禁断の愛」とセットになっている当時の「ジュネ」は嫌でした。「あなたたちが美化するのは構わないけれど、禁じられる筋合いはない」っていう(笑)ところがボーイズラブになって、いきなり軽くなったんですね。ただ今も色々なボーイズラブ漫画があって、少女マンガの男同士版みたいなものにはおよそ私の入る隙間はない、と思っちゃうんだけど、エロを前に押している感じのところは、お呼びがかかれば行きますよ、という感じで描いています。

 

Q.絵柄の変化について、これから漫画家としてどのように進化をしていくのか。

 

 変化っていうのは結構自然なものなんですね。ただいつも理想にしている絵っていうのがあるんですけれども、それも変わっていきます。私の場合、初期は「勢い」のある線を描きたくて、それがある時期からもう少し形をしっかりと描いていく風に変わって、ただ『君よ知るや南の獄』を描いた後に、この線でやっていける究極のところまでは行ったかな、これ以上この形を続けても、硬直した様式美の様なものはあるかもしれないけれど、そこから何かが発展していくことはないだろうな、と感じて、自分の線を壊していく作業をしたんです。私が感じる限界っていうのはおそらく「漫画の線」の限界なんですね。そこで「漫画」から伝統的な「ペン画」の線、息遣いが伝わるような線にシフトしていったんです。それでもう一度自分の線に愛着が持てました。田亀イベント 出演者3名.jpg

 

 ※ご出演の皆さま、お越し頂きました皆さま、ありがとうございました。

  イベントのほんの一部でしたがお楽しみ頂けたでしょうか。

会期中は圧倒的な熱量を持ちながらも、細部まで描きこまれた緻密な作品群が並び、パワフルな展覧会となりました。ヴァニラ画廊では展覧会に引き続き田亀源五郎の書籍を取り扱っておりますので、スタッフまでお申し付け下さい。