2024年12月8日(日) 本日の営業時間 12:00 - 17:00 【展示室A】 FREAKS CIRCUS個展「ゆめのまたゆめ」 【展示室B】 稲垣征次個展「いつだって光があれば」

'09/6/1 ~ 6/13 伊藤文學コレクション〜薔薇族周辺のゲイ・エロティックアート

特別展示・入場料500円

イベント 伊藤文學氏・田亀源五郎氏による特別トークショー 
6月7日(日)15時〜(1ドリンク付)
入場料1,500円

出展作家(予定)
田亀源五郎
三島剛
船山三四
小田利美
遠山実
児夢(GYM)
長谷川サダオ
木村べん
平野剛
大川辰次
稲垣征次
三上風太

出展協力 田亀源五郎 城平海 荻崎正広

(監修)田亀源五郎

『薔薇族』周辺のゲイ・エロティック・アート

 1971年、本邦初の商業ゲイ雑誌『薔薇族』の創刊によって、日本のゲイ・エロティック・アート史は大きな転機を迎えた。
 日本において、ゲイ・エロティック・アートは『薔薇族』創刊以前にも存在していた。しかし、それらが見られるのは、会員制の同人誌(『アドニス』『薔薇』等)や、総合<変態性欲>誌(『風俗奇譚』等)の片隅といった、極めて限られた場のみであった。
 そういった助走を経て、『薔薇族』という日本初の「ゲイのためだけの商業メディア」が誕生した。

伊藤文學コレクション〜薔薇族周辺のゲイ

 これは、自分の作品を世に出したいと願う作家にとって、また、それを愛好するファンにとって、どれだけ大きな意味があったことか。残念ながら筆者は、それにリアルタイムで立ち会っていた世代ではないが、想像するにその感覚は、大げさに例えれば、少数民族が独立国家を得たようなものであったのかもしれない。
 かくして『薔薇族』には、綺羅星の如くアーティストたちが集結した。
 出展作家では、大川辰次・三島剛・船山三四は、会員誌や総合<変態性欲>誌時代から活躍し、後に発表の場を『薔薇族』に移した作家である。
 平野剛も同様であるが、前述の三者とは異なり、その才能が本格的に花開くのは、『薔薇族』に描くようになってからである。前述した前時代からの継続組と、後述する生え抜き作家たちとの、いわば中間地点にいる作家である。
 それとは逆に、小田利美は、総合<変態性欲>誌のみで活躍し、ゲイ雑誌に登場することはなかった作家である。厳密に言えば「『薔薇族』周辺」とは言い難いのだが、ゲイ雑誌が誕生する以前のゲイ・エロティック・アートの一例として、また、前述の継続組と比較する意味合いも兼ねて出展することにした。
 遠山実・木村べん・児夢(GYM)・長谷川サダオは、『薔薇族』創刊以降に登場した、ゲイ雑誌生え抜きの作家たちである。稲垣征次・三上風太も同様ではあるが、ゲイ雑誌生え抜き組からも薫陶を受けているという点で、世代としては一つ後に分類すべきであろう。筆者もまた、この世代に相当する。
 『薔薇族』の成功は、その後追い雑誌の誕生という形で、更に日本のゲイ・エロティック・アート文化の拡大を招く。
 創刊にあたって『薔薇族』から三島剛を迎え入れた『さぶ』、創刊した人物がそもそも『薔薇族』の関係者であった『アドン』といった、今はなき二誌はもとより、現在刊行が続いている『サムソン』や『バディ』や『ジーメン』といった雑誌も、そこに寄稿した作家を見れば、何らかの形で『薔薇族』との繋がりを発見することができる。
 こうして振り返ってみると、『薔薇族』というのは、日本のゲイ・エロティック・アート史において、未開の地を開墾して造られた、最初の畑のようなものだったのかもしれない。
 それまでは、路傍で小さな花を咲かせるのが精一杯だった「種」たちが、最初の畑に飛んできて根付き、また、そこから新たな種子が、新たな畑を目指して旅立つ。畑は増え、作物の種類も豊富になっていく。それが、日本のゲイ・エロティック・アートの歴史となった。
 そして、その最初の畑の開墾者こそが、伊藤文學氏なのである。

TEXT 田亀源五郎