2011年より始まった公募・ヴァニラ大賞も年を追うごとに応募者が増え、本年度も意欲的な作品が多数集まりました。
審査員に都築響一氏(写真家)、宮田徹也氏(美術評論家)を迎え、白熱の議論の末、珠玉の作品が選出されました。

大賞/1名

鯨虎(いさなこ)じょう

鯨虎(いさなこ)じょう

「宇宙風景-TOKONOMA002」

技法画材:陶/サイズ:h 830 × w 540 × d450

都築響一賞/1名

内田佳織

内田佳織

「嘔吐」

アクリル絵の具、刺繍/60.6cm×50cm

宮田徹也賞/1名

相原理恵

相原理恵

「人間」

透明水彩/148cm×82cm

ヴァニラ賞/1名

今泉奏

今泉奏

「父の夢を見る」

ウォータレスリトグラフ/80cm×40.5cm

奨励賞/4名

小谷野翼

小谷野翼

「machine」

Acrylic on paper
/72.8cm×103cm

おおのあやか

おおのあやか

「Fellatio」

アクリル、メディウム、キャンバス
/1167mm×910mm

高本奏

高本奏

「論理について」

キャンバスにミクストメディア
/163.0×130.3

高橋ひかる

高橋ひかる

「無呼吸」「過呼吸」

岩絵の具 水干絵の具 和紙
/各116.7cm×45.5cm

選評

【都築響一】

◆大賞/鯨虎じょう「宇宙風景-TOKONOMA002-」

それ自体がうねうねと増殖する深海の生きもののようでもある。大地を象が支え、それを亀が支え、さらに蛇が支える古代の宇宙図像のようでもある。最初はよくわからなかったのが、細部を見ていけばいくほど、奥に引き込まれていく。気がつけば長い時間が経っていて、立体の本を読んでいたのかと思う。奇怪でもあれば美しくもある、硬くて柔らかなカタマリ。作家の内面から弾け出すエネルギーの激しさに圧倒された。

◆都築響一賞/内田佳織「嘔吐」

絵筆で色をつけていくこととも、彫刻刀でなにかを削ることともちがう、針と糸で布地をチクチク刺していくことには独特の感覚があるのだろう。見る側にも伝わってくるそれは、刺繍というてわざがまとう時間の感覚だろうか。ひと針ずつ進めていく、その作業にかかる手間が、そのまま思いの強度をあらわすメーターの針のようにも見えてくる。こころの闇に捧げられた、ひとり千人針。

【宮田徹也】

◆大賞/鯨虎じょう「宇宙風景-TOKONOMA002-」

美術作品とは常に時代を反映し未来を予告する。今年のヴァニラ画廊大賞応募作品のほとんどは、阿鼻叫喚の地獄を通り越した現代を見事に映し出していた。
「誰も信じられない」「先が全く見えない」「悪魔主義」という主題と作品が大半を占め、見ている私達の心が痛んだ。
作品を売ることや有名になることを目指すアーティストは、ここにはこない。共感を求めることなく自己の心情を吐露する思いにこそ、アーティストである本質が秘められている。
鯨虎じょう《宇宙風景》もまた「ネガティブでマイナスなエネルギーを、昇華させる為に」制作された。私達に共通した認識は、この作品に見えなくとも希望があることにある。これからも展開できるであろう。

◆宮田徹也賞/相原理恵「人間」

数ある作品の中で、どうしても私の心から離れられない作品があった。相原理恵《人間》である。作品説明には「生きること。五感を使い、六感で生きて、全身で生を叫ぶ。人一人が悩み迷い、時には救われながら、生の実感を体に刻み付けるその在り方を表現しました」とある。
透明水彩で20枚のスケッチブックに描き、貼り合わせた作品である。一本一本の線の主張がある。声が聴こえてくるのだ。総体として遠目で眺めると確かに人物ではあるのだが、私にはそれが一人の人物ではなく複数の人間に見えてくる。
ここに絶望とか希望を見出すのではなく、人間と人間との間の関係性(H・アーレント)が描かれていることに、私は喜びを感じたのであった。

【ヴァニラ画廊】

◆大賞/鯨虎じょう「宇宙風景-TOKONOMA002-」

ジャンル不問、既成概念を打ち壊す意欲作を募集した「ヴァニラ画廊大賞」も本年で6回目を迎えました。今回も国内外より多数の魅力的な作品のご応募をいただきましたことを心より御礼申し上げます。
絵画、写真、立体と多岐にわたる作品群の中で、とりわけ悲観、諦念、虚無といったやり場のないネガティブな感情を凝縮させた、魂の咆哮のような荒々しくも力強いオブジェに、審査員の注目は集まり、今回の対象作品が決まりました。
複雑に混じり合った釉薬で覆われたプリミティブな形を持つ作品は今城さん自身の言葉を借りると「マイナスなエナルギーを、昇華させる」ために生み出されるそうです。これからもありのままの自分と真摯に対峙しながら、制作に打ち込んでいってもらいたいと強く願っています。

◆ヴァニラ賞/今泉奏「父の夢を見る」

古来より蛇は、輪廻転生を象徴する生物として崇められてきました。ゆえに、蛇神メシンが太陽神ラーを守るために円状に取り囲んだことが、ウロボロスの概念の原型として言われていおり、自分の尾を咥えた蛇の円形は、「完全なる円」をかたどる死と再生のシンボルとされてきました。
今泉さんは「夢の中で出会った今は亡き父親と、彼を見つめる自らと家族を描いた」と綴ります。「父に会いたい」との募る想いを、古往今来、家族を見守り続ける象徴として柔らかなリトグラフのタッチとモノクロームの濃淡で表現しています。欠けてしまった家族の輪を再び繋ぎ合わせた、その真摯な祈りの強さと、優しい眼差しに心を打たれました。